生成AI研修で最初に教えていること——プロンプトより「前提の書き方」
生成AI研修の最初の時間、私はプロンプトの型ではなく「前提の書き方」を扱います。目的・読み手・素材・制約の4点を短く書くだけで出力が変わる理由と、研修で使っているワークの進め方を紹介します。
結論から書くと、生成AI研修の最初の時間に私が扱うのは、プロンプトの「型」ではなく前提の書き方です。具体的には、依頼文の前に「目的・読み手・素材・制約」の4点を数行で書く練習をします。うまくいかない出力の多くは、指示の言い回しより、AIが知らない前提が抜けていることに原因がある、というのが私の実感だからです。
プロンプトの型から入らない理由
研修の冒頭で「どう書けばいいですか」と聞かれることがよくあります。ここで「役割を与える」「ステップで考えさせる」といった型から教えると、受講者は型を埋めることに集中して、肝心の中身が薄いままになりがちでした。
私がディレクターとして依頼を受ける側に立つときも同じです。「いい感じのバナーを」と頼まれて困るのは、言い回しのせいではなく、誰に向けて・何のために・どこに載るのかが分からないからです。AIもこの点は変わらない、と説明すると、多くの人が納得してくれます。
前提の4点セット:目的・読み手・素材・制約
研修では、依頼の前に次の4点を書いてもらいます。
| 項目 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 目的 | この出力で何を決める/動かすか | 来週の社内会議で企画を通す |
| 読み手 | 誰が読むか、何を知っているか | 予算権限のある部長。Webの専門用語は知らない |
| 素材 | 根拠にしてよい情報 | 貼り付けたアンケート結果だけ |
| 制約 | 量・形式・やらないこと | A4で1枚。数字は素材にあるものだけ使う |
この分け方は私の自己流ですが、OpenAIのプロンプトエンジニアリングのガイドでも、開発者向けの指示を「Identity」「Instructions」「Examples」「Context」といった部分に分けて書く構成が紹介されています。名前は違っても、「何をしてほしいか」と「判断に必要な情報」を分けて渡す考え方は近いと受け止めています。
特に効くのが「素材」と「制約」です。「数字は素材にあるものだけ使う」と一行書くだけで、もっともらしい数字が紛れ込む場面が減ります。
研修でやっているワーク
ワークは15分ほどで、流れは次のとおりです。
- 受講者に、普段の業務で頼みたいことを一文で書いてもらう(例:「新サービスの告知文を書いて」)
- その一文だけでAIに出力させる
- 4点セットを書き足して、もう一度出力させる
- 2つの出力を並べて、「どこが変わったか」「何を書き足したら変わったか」を隣の人と話す
ポイントは、比較を自分の目でやってもらうことです。私が「前提が大事です」と言うより、自分の依頼で出力が変わるのを見たほうが定着します。逆に、4点を書いても出力があまり変わらないケースもあり、そのときは「この依頼はAIに向いていないのかもしれない」という判断材料として扱います。
書きすぎても効かない——前提の「ちょうどいい高さ」
前提を教えると、今度は細かい条件を何十行も書く人が出てきます。ここで紹介しているのが、Anthropicのエンジニアリングブログ「Effective context engineering for AI agents」(2025年9月29日)の考え方です。記事では、システムプロンプトには「right altitude(ちょうどいい高さ)」があり、細かい条件分岐を書き込みすぎると壊れやすく、逆に抽象的すぎると前提が共有されていない、という2つの失敗が挙げられています。
研修ではこれを、「新しく入った人に渡す引き継ぎメモくらいの粒度」と言い換えています。全部の場合分けは書かない。けれど、その人が知らないはずのこと(社内の略語、過去の経緯、使ってはいけない表現)は書く。この線引きは、AIに限らず人への依頼でもそのまま使えるので、研修後に「部下への指示の出し方が変わった」と言われることもあります。
明日から試せる一手
次にAIへ頼むとき、依頼文の前に「目的:」「読み手:」「素材:」「制約:」の4行だけ書いてから送ってみてください。1行ずつで構いません。書けない項目があれば、それはAIではなく自分の中でまだ決まっていない前提です。そこが見つかるだけでも、その依頼は一歩進んでいます。