ペルソナとカスタマージャーニーマップは「会話の道具」として使う
ペルソナやジャーニーマップは、きれいに仕上げて納品するほど使われなくなりがちです。会議で指をさし、判断の根拠を言い合うための道具として、粗く作って何度も書き直す。私が制作案件で使っている形を書きます。
ペルソナとカスタマージャーニーマップは、完成させる資料ではなく会議で指をさすための道具として使うのがいちばん効く、というのが私の実感です。きれいにレイアウトしてPDFで納品した瞬間から、誰も開かなくなる。逆に、粗くても毎回の打ち合わせで机に出ていれば、「この人ならここで迷うよね」という会話が生まれ、判断が速くなります。
「作って終わり」になる理由
ペルソナという手法を広めたのは、Alan Cooper の1999年の著書 The Inmates Are Running the Asylum だとされています(Pearson のサンプルページ)。もともとは「誰のために作るのか」を開発チームの中で一つに絞るための考え方でした。
ところが制作の現場では、ペルソナが「提案書の1ページ」になりがちです。顔写真、年齢、趣味、好きなブランド。見た目は整っていても、デザインや文言の判断に一度も使われないまま終わる。私も以前はそうでした。原因は、作ること自体が目的になって、何を決めるために使うのかが決まっていないことだと考えています。
ペルソナは「判断に効く項目」だけ書く
今の私のペルソナは、A4の半分ほどです。書くのは次の4つだけにしています。
- 状況:どんなときにこのサイトに来るか(例:昼休みにスマホで、比較のために)
- 目的:来たときに何を持ち帰りたいか
- 不安:申し込みや問い合わせをためらう理由
- 判断材料:最後に背中を押すもの(料金、事例、口コミ、所在地など)
趣味や家族構成は、デザインや導線の判断に使わないなら書きません。反対に「不安」と「判断材料」は、そのままファーストビューの見出しやFAQ、CTA付近の安心材料に落ちます。項目が判断に直結しているので、会議で「このペルソナの不安はどこで解消してる?」と聞くだけで、画面の抜けが見つかります。
ジャーニーマップは「横軸」から先に決める
カスタマージャーニーマップについては、Nielsen Norman Group の Journey Mapping 101 が、構成要素を「アクター・シナリオと期待・フェーズ・行動と思考と感情・機会」の5つに整理しています。同記事では、ジャーニーマップの価値としてチームの認識を揃えることが挙げられていて、私の使い方もここに近いです。
実務では、全部を一度に埋めようとしないことにしています。順番はこうです。
| 手順 | 決めること | 会議で使う問い |
|---|---|---|
| 1 | フェーズ(横軸) | 「知る→比べる→決める→使う」のどこまでを扱う? |
| 2 | 各フェーズの行動 | このとき実際に何を見て、何を触っている? |
| 3 | 不安・感情 | どこで手が止まりそう? |
| 4 | 機会 | サイトのどのページで、それを解消する? |
横軸が決まるだけで、「トップページで全部説明しようとしている」「比べる段階の情報が一つもない」といった偏りが見えてきます。感情の曲線を丁寧に描くのは、その後で十分です。
粗く作って、会議ごとに書き直す
どちらの道具も、最初はホワイトボードや共有スプレッドシートで作ります。清書しないのは、書き換えのハードルを下げるためです。クライアントから「実際のお客さんは電話で聞いてくることが多い」と一言出たら、その場で行動の欄を書き換える。この書き換えこそが、ヒアリングの成果そのものだと考えています。
注意しているのは、ペルソナを事実のように扱いすぎないことです。インタビューやアクセス解析の裏付けがない項目には「仮」と付けておき、データが取れたら差し替えます。仮説と事実を混ぜると、会話の道具が、反論を封じる道具に変わってしまうからです。
明日から試せる一手
次の打ち合わせの前に、対象ユーザーの「状況・目的・不安・判断材料」の4行だけを書いてみてください。そのうえで、会議の最初に「この人の不安は、今のサイトのどこで解消していますか」と一つだけ聞く。答えに詰まった場所が、次に直すべきページです。