//
2026.10.28/4 min read#direction#pm

保守運用の契約範囲の決め方——定期作業・問い合わせ対応・緊急対応を分ける

保守運用の契約を「月額いくらで面倒を見ます」とだけ決めると、公開後に範囲の食い違いが起きます。私は定期作業・問い合わせ対応・緊急対応の3つに分け、それぞれ回数・時間・判断者を書くようにしています。その分け方を整理します。

保守運用の契約は、「定期作業」「問い合わせ対応」「緊急対応」の3つに分けて、それぞれに上限と判断者を書くのがいちばん揉めにくい、というのが私の結論です。「月額で保守をお願いします」「はい、お任せください」だけで始めると、半年後に「これは保守に含まれますよね」という会話が起きがちです。どちらかが悪いのではなく、最初に言葉にしていなかった、というだけのことが多いと感じています。

「保守」という言葉は人によって指す範囲が違う

制作会社にいた頃、保守契約を結んだクライアントから「新しいキャンペーンページを1枚作ってほしい、保守の範囲で」と相談されたことがあります。こちらは「保守=壊れないように維持すること」と考え、先方は「保守=サイトに関することは何でも相談できる窓口」と考えていました。

以来、私は保守運用を3つの層に分けて説明しています。

層 中身の例 書いておくこと
定期作業 CMS・プラグインの更新、バックアップ確認、SSL証明書の期限確認、月次の簡単なレポート 頻度と作業内容の一覧
問い合わせ対応 文言差し替え、画像の入れ替え、操作方法の質問 月の上限(時間 or 件数)、回答までの目安
緊急対応 サイトが表示されない、フォームが届かない、改ざんの疑い 「緊急」の定義、連絡手段、初動までの時間

この表を見積書や契約書の別紙として付けるだけで、「これは含まれますか」という質問に表を指して答えられるようになりました。

定期作業:やることを「一覧」にして、やらないことも書く

定期作業は、発注側から見えにくい仕事です。何もしていないように見えて、実際には更新作業とその後の表示確認をしています。だからこそ、作業の一覧と頻度を書いて、毎月の報告で同じ一覧にチェックを付けるようにしています。

WordPressの案件なら、更新作業は定期作業の中心になります。WordPressの公式ドキュメントHardening WordPressでも、古いバージョンはセキュリティ更新の対象外とされ、更新された版を使い続けるよう案内されています。更新しないことのリスクを発注側に伝えるときは、私の意見としてではなく、こうした公式の案内を一緒に示すほうが伝わりやすいと感じています。

あわせて書いておきたいのが「定期作業に含まないこと」です。たとえば、プラグインの更新で表示が崩れた場合の修正は定期作業に含めるのか、別見積もりにするのか。ここを決めておかないと、更新のたびに小さな交渉が発生します。私は「更新が原因の不具合は定期作業内で直す。ただし、プラグインの提供終了などで代替手段を探す作業は別途相談」と書くことが多いです。

問い合わせ対応:上限は「時間」で決め、超えたら相談

問い合わせ対応でいちばん揉めるのは、量です。月に1件の文言修正のつもりが、繁忙期には10件来ることもあります。私は月あたりの対応時間の上限を決め、超えそうになった時点で「今月はここまでで上限に近づいています。残りは来月に回すか、追加で見積もるか、どちらにしますか」と先に相談するようにしています。

件数で区切る方法もありますが、「文言1か所」と「ページ構成の変更」が同じ1件になってしまうため、私は時間で区切るほうを選んでいます。また、以前書いた見積もりで後から揉める3つのパターンと同じで、「新規ページの追加」「デザインの変更」は問い合わせ対応ではなく別見積もり、と前提に書いておくと境界がはっきりします。

緊急対応:「緊急」の定義と、判断する人を決める

緊急対応で大事なのは、速さより何が緊急かを先に定義しておくことです。発注側にとっては「トップのバナーの文字が1文字違う」も緊急に感じられることがあります。私は次のように書いています。

  • 緊急:サイト全体または主要ページが表示されない、フォームや決済が動かない、改ざん・情報漏えいの疑いがある
  • 通常:表示はされているが内容に誤りがある、一部の表示が崩れている
  • 連絡手段:緊急は電話または決めたチャットの専用チャンネル、通常はメールやチケット
  • 初動の目安:営業時間内か時間外か、土日をどう扱うか

もう1つ決めておきたいのが、緊急時に「公開を止める」「前の状態に戻す」を判断する人です。制作側が技術的に戻せても、キャンペーン期間中にページを止めてよいかはクライアントが決めることです。判断者と連絡先を1行書いておくだけで、深夜の対応で迷う時間が減りました。

明日から試せる一手

いま保守運用を受けている案件があれば、この記事の3層の表をそのまま使って、ここ3か月の対応履歴を「定期作業」「問い合わせ対応」「緊急対応」に振り分けてみてください。どの層に偏っているかが見えると、次の契約更新で上限や金額を相談する材料になります。振り分けられない作業が出てきたら、それがまさに契約に書かれていない範囲です。