見積もりで後から揉める3つのパターン——前提条件を見積書に書く
見積もりのトラブルは金額そのものより「何を前提にした金額か」が共有されていないことから起きがちです。私が経験した3つのパターンと、見積書に前提条件として書いている項目を整理します。
結論から書くと、見積もりで後から揉めるとき、原因の多くは金額ではなく前提にあります。こちらが「この条件ならこの金額」と考えていたことが、見積書のどこにも書かれていない。だから私は、金額の下に「前提条件」の欄を必ず設けるようにしています。
以前、見積もりを工数・期間・リスクに分けて出す話を書きましたが、今回はその手前の話です。数字をどう分けても、前提が共有されていなければ、どの数字も守れません。
パターン1:「修正」の回数と範囲が決まっていない
いちばん多いのがこれです。デザインの修正が4回目、5回目と続き、「最初の見積もりに含まれていますよね」と言われる。こちらは2回までのつもりでも、見積書に書いていなければ、相手にとっては無制限に見えます。
回数だけ書いても足りません。「修正」と「方向転換」の境目も書いておきます。私は次のように分けています。
| 種類 | 例 | 扱い |
|---|---|---|
| 修正 | 文言の差し替え、色味の調整、要素の位置変更 | 2回まで見積もりに含む |
| 方向転換 | トーンの変更、構成の組み直し、ページ追加 | 別途お見積もり |
境目を表にしておくと、5回目の依頼が来たときに「これは表のどちらですか」と一緒に確認できます。断るためではなく、判断を相手と共有するための表です。
パターン2:素材の用意が誰の担当か決まっていない
2つめは素材です。原稿・写真・ロゴデータが届かないまま公開日が近づき、最終的にこちらで仮の文章を書き、撮影を手配し、その費用は誰が持つのか、という話になる。
見積もりの時点で私が書いているのは、素材ごとの担当と期日です。
- 原稿:クライアント支給(○月○日まで)。ライティングが必要な場合は別途
- 写真:クライアント支給。撮影が必要な場合は撮影費を別途
- ロゴ:ベクターデータ(AIまたはSVG)で支給
期日まで書くのが大事です。素材が遅れたときに、公開日がずれる理由を説明できるからです。期日がないと、遅れの原因がこちらの作業にあるように見えてしまいます。
パターン3:「どこまでが納品物か」の境界があいまい
3つめは納品の範囲です。サイトを公開したあと「更新方法を教えてほしい」「サーバーの設定もお願いしたい」「1か月後に数字を見てほしい」と続く。どれも自然な相談ですが、見積もりに入っていなければ、無償の追加作業になります。
私は「含むもの」と同じ数だけ「含まないもの」を書くようにしています。
- 含む:テンプレート制作、公開作業、公開後2週間の不具合修正
- 含まない:公開後の運用・更新代行、サーバー・ドメインの契約、アクセス解析のレポート
「含まないもの」を書くのは気が引けますが、書いておくと、相手が別の見積もりを依頼するきっかけにもなります。黙っておくより、選択肢として見せたほうが関係は続きやすいと感じています。
前提条件は「書面で残す」が基本
前提を書面に残すのは、私の習慣というだけではありません。2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法では、発注事業者がフリーランスに業務を委託した場合、給付の内容や報酬の額などの取引条件を、書面またはメール等の電磁的方法で直ちに明示することが求められています。公正取引委員会の特設サイトでは、口頭での明示は認められないとされています。
私が受ける側のときも、外部に頼む側のときも、見積書と発注内容をテキストで残すようにしています。法律の適用関係は取引の形によって変わるので、個別の判断は公式資料や専門家で確認してください。ここで言いたいのは、業務の内容を具体的に書くことは、受ける側・頼む側の両方を守るということです。
明日から試せる一手
次に出す見積書に、「前提条件」の欄を1つ足してください。中身は3行で十分です。
- 修正は何回まで、どこからが方向転換か
- 素材は誰が、いつまでに用意するか
- 納品に含まないものは何か
過去に揉めた案件を1つ思い出して、この3行を当てはめてみるのもおすすめです。たいてい、どれか1行が空欄だったはずです。