見積もりは3つに分けて出す——工数・期間・リスクを混ぜない理由
「この案件、いくらで何日?」に1つの数字で答えると、あとで削る相談ができなくなります。工数・期間・リスクを別々に出す手順と、クライアントに見せる順番を、実際に使っている形で書きます。
見積もりを聞かれたとき、私は工数・期間・リスクの3つを別々に出すようにしています。理由は単純で、1つの数字にまとめてしまうと、あとから「もう少し短くならないか」と言われたときに、どこを削る話なのかが誰にも分からなくなるからです。
1つの数字は、交渉の材料にならない
「3週間です」とだけ答えた見積もりは、値切られたときに「じゃあ2週間で」としか返ってこない。こちらは中身を知っているので何を削るか分かりますが、相手には分かりません。結果として、削る判断をこちらが一人で背負うことになります。
3つに分けておくと、会話が変わります。工数を減らすのか、期間を詰めるのか、リスクの持ち分を相手に移すのか。同じ「短くする」でも打ち手が3種類あることが、数字の並びだけで伝わります。
工数と期間は、そもそも別の単位
工数は人が手を動かす量、期間はカレンダー上の長さです。この2つを混ぜたまま話すと、必ずどこかで破綻します。
私の場合、WBSの各行に対してまず工数(人日)だけを埋めます。ここでは休日も、レビュー待ちも、他案件との掛け持ちも考えません。純粋に「集中してやったら何日分か」を書く。
期間はそのあとです。工数に、稼働率(私は一人で複数案件を回すので0.5〜0.7で置くことが多い)、レビューや承認の待ち時間、素材が届くまでの待ちを足してカレンダーに落とします。この計算を分けておくと、「工数は8人日だけど、承認待ちが2回入るので期間は3週間」という説明ができる。逆に「短くしたい」と言われたときに、待ち時間のほうを詰める相談に持ち込めます。
リスクは幅で出して、別枠に置く
3つめのリスクは、工数や期間の中に溶かさず、別の行として出します。「デザインの方向性が2案で割れた場合 +3人日」のように、条件と増分をセットで書く。
公的なコスト見積もりのガイドラインでも、基準となる見積もり(point estimate)を作る工程と、リスク・不確実性を分析する工程は別のステップとして整理されています。米国会計検査院のCost Estimating and Assessment Guide(GAO-20-195G, 2020年3月)では、見積もり手法の適用と感度分析・リスク分析が別々の段階として並んでいます。NASAのCost Estimating Handbook Version 4.0でも、リスクと不確実性の扱いはAppendix G「Cost Risk and Uncertainty Methodologies」として本体から切り出されています。規模はまったく違いますが、基準値とリスクを分けて持つという考え方は、数人規模の制作案件でもそのまま使えます。
小さな案件では確率計算まではしません。楽観・最可能・悲観の3点を書き出して、その差が大きい行だけを拾う、くらいで十分だと感じています。差が大きい行は、たいてい「まだ決まっていないこと」が原因です。
見せる順番は、期間 → 工数 → リスク
出す順番も決めています。クライアントが最初に知りたいのは期間なので、期間から。次にその根拠として工数。最後にリスクを「今この条件なら発生しない前提です」と添える。
リスクを先に並べると、防衛的な見積もりに見えてしまいます。順番を変えるだけで、同じ数字が「余裕を持たせた提案」から「条件付きの約束」に変わる感覚があります。
明日から試せる一手
次に見積もりを作るとき、シートに列を3つ用意してください。工数(人日)、期間(営業日)、リスク増分と条件。既存の見積もりを1本、この3列に分解し直すだけでいい。
分解してみて、工数から期間への変換に何を足したのか自分で説明できなければ、そこが今いちばん危ない場所です。