Art.
誰の合意もいらない場所でつくっているもの。言葉と文字を扱ったデジタルの作品と、手で描いていたころの絵。
失われた言語/失われつつある言語で書く
伝わらなくなった言葉を、もう一度だれかが書く。
世界242カ国には7,168の言語があり、そのうち約40%が消滅の危機にあると言われている。消滅の危機にある言語の使い手は1,000人未満とごく少数で、世界の人口の半分以上が使う言語はわずか23言語。来場者には、アイヌ語や与那国語、ヤーガン語など、すでに失われたか失われつつある言語の「ありがとう」をiPadに書いていただく。書かれた文字はスクリーンにランダムに現れては消えていく。誰かが書いた文字と誰かが書いた文字が時間を超えて重なる。今では書いても誰にも伝わらないかもしれない言葉を、かつては多くの人が使っていた。
実は、アイヌ語にはもともと文字がない。そしてアイヌ語が消えていった原因のひとつは、日本語でもある。だから本来、アイヌ語を日本語の文字で書き表すこと自体が問題でもある。ただ、それでも、なくさないためには、そうするしかない。無自覚に、良かれと思い、消えていくことに加担しているのかもしれない。
スクリーンには、ときどき誰も書いていない文字や、書いたものに似ているだけの線が現れる。いま言葉として残っているものが本当なのか嘘なのかはわからない。その当時の流行もある。そして、言葉はもぞもぞと動き意味も変わり続けていく。
絵や落書きを描いて楽しんでくれる方が多く、実際に書いた文字もまわりのノイズで消えていくものであり、描いた文字の上に落書きが覆い被さる情景はとてもリアルに感じた。
- 出展
- オテラート(2024)
- 作家名
- amu
- 技法・素材
- HTML, JavaScript(p5.js), Firebase
インベーダー
一滴の水が、遠くの何かに影響を与える。
去年の展示で来場者に書いていただいた言語のデータを星にした作品。書かれた線の座標を元に計算し、線の先端だけ残して表示している。その映像をプロジェクターで水の中に置いた鏡へ投影し、反射させて壁に映す。RGBライトの光が重なり、インベーダーゲームのような映像となる。
スポイトで水の中に水を一滴垂らすと、映像も揺れて動き出す。 一滴の水が波紋のように広がり、大きな影響を与えることがある。バタフライエフェクト。ほんの少しのことが、戦争につながる。揺れる光の中で、その一滴がインベーダー(侵略者)を倒しているようにも見えた。
- 出展
- オテラート(2025)
- 技法・素材
- JavaScript(p5.js, three.js)、プロジェクター、鏡、水、RGBライト
とおいところにある街:外の告白
外から届く音が、世界のどこにもない文字になる。
告白と聞いて、初めて誰かに想いを告げた日のことを思い出した。全身が強張り、やり直しはきかない。たった一度きり。その「告白」という言葉から引き寄せられたのは、「一回性」だった。その場の空気、天気、目の前の相手。あらゆる要素が重なった末に、こぼれ落ちる音がある。
「外の告白」は、雨、風、虫の声、そしてこの部屋の物音を拾う。外から届く音と部屋の中の音の組み合わせは二度とない。その音は文字になって現れる。それが1冊の本として編まれていく。
風の音は「ビュービュー」、雨の音は「ザアザア」などオノマトペになるが、文字に表すことができない音もある。その既存の文字にならない音は、音に似たような文字が浮かぶようにアルゴリズムでその場で生み出し、世界のどこにもない文字として立ち上がる。
- 出展
- オテラート(2026)
- 作家名
- アム
- 技法・素材
- ディスプレイ、Mac mini、ヘッドホン、ミキサー、プロジェクター
とおいところにある街:内の告白
名も知らぬ街で、住人と話す。最後に、ひとりごとを。
「内の告白」はどこかの街にいるAIとの対話。雨の降るこの夜の街に入ると、住人が話しかけてくる。住人は過去に経験したこと、感じたことをしみじみと話しだす。そして来場者はAIと会話して内なる思いを吐き出していく。
AIと会話した内容は終了後、自動でプリントされて持ち帰り、改めて振り返っていただくことができる。また、望めば自分も話した内容を踏まえてこの「とおいところにある街」に住むことができる。その方はまた違う誰かと会話をしていく。
最後にもうひとつだけ。最近思うことを、小さな声でつぶやいてもらう。話せるのは一度だけ。ここでは記録もプリントもされない。すべてを終えたあと、少しだけ胸が軽くなっていたら幸い。
- 出展
- オテラート(2026)
- 作家名
- アム
- 技法・素材
- ディスプレイ、Mac mini、ヘッドホン、ミキサー、プロジェクター
鏡文字
読めない側から、言葉を見る。
「I love you」「No war」「Are you OK?」。よく使われる短い言葉を左右反転し、その下にコンピュータが扱う文字コードを添えたシリーズ。人には読みにくく、機械には変わらず読める。言葉のどこまでが意味で、どこからが信号なのかを見ている。
書体の名前
美しい名前を、ふさわしくない書体で。
Didot、Garamond、Futura。書体の名前だけを並べ、あえて別の書体で組んだ2枚。名前の響きと文字の姿がずれるとき、私たちが「美しい」と呼んでいたのはどちらだったのかが見えてくる。
絵・ドローイング
手で描いていたころの記録。
アクリル、木炭、色鉛筆、ステンドグラス、写真。美術の学校に通っていた時期から手元に残っているものをまとめた。デジタルの作品をつくるようになった今も、この手癖がどこかに残っている。